犬の肺高血圧症とは

犬の肺高血圧症をご存知でしょうか。小型犬ではある理由からとても発症率が高く、発症すると長くは生きられない病気です。どのような症状や経過をたどるのか解説します。

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犬の肺高血圧症とは

肺高血圧症とは、文字通り肺に向かう血管の血圧が異常に高くなってしまう病気です。
全身の臓器に酸素を供給して心臓に戻ってきた血液は、心臓の右心室から肺動脈を介して肺に流れることで、肺で再び酸素を受け取って全身を巡っていきます。
心臓から肺に向かう血管の圧力が高くなると、肺に血液を送ることができなくなり、慢性的な低酸素状態になります。また、肺に向かう事ができなくなった血液は心臓で渋滞してしまいます。すると、行き場を失った血液はお腹の中に腹水として漏れ出てしまうなど、心不全の症状が出てしまいます。
確定診断には、心臓にカテーテルを入れて直接肺動脈の血圧を測ることが必要ですが、心臓超音波検査によって右心室を流れる血流の速度を図ることによっても肺高血圧症と診断することができます。

症状

肺に向かう血圧が高くなることで、右心室から血液が送り出せなくなる右心不全となります。
この右心不全が原因で様々な症状が認められます。主な症状としては

  • 安静時の呼吸数の増加
  • 運動を嫌がる
  • チアノーゼ
  • 失神
  • 腹水や胸水が溜まる
  • 下痢などの消化器症状

などが挙げられます。
肺に血液が上手く送り出せなくなると、血液中の酸素が足りなくなり(低酸素血症)、呼吸困難や安静時の呼吸数の増加、舌が紫色になる症状(チアノーゼ)が認められます。

安静時呼吸数を毎日記録しましょう

また、低酸素血症が原因で失神をおこします。
この失神の様子は特徴的で、興奮に伴って後ろに仰け反るようにゆっくり倒れます。痙攣を起こすことは少なく、意識がない状態が数秒から数分程度続きます。

また、右心室に血液が停滞することで全身を巡ってきた血液が還ってこれなくなり、血液の液体成分が胸部の血管から漏れ出すと胸水に、腹部の消化管の血管から漏れ出すと腹水として溜まり、苦しくなる原因となります。
また消化管の動きが悪くなり、下痢などの症状が認められることがあります。

原因

犬の肺高血圧症は様々な原因によって起こります。主な原因としては

  • 動脈管開存症、心室中隔欠損などの先天性心疾患
  • 僧帽弁閉鎖不全症
  • 気管虚脱、肺炎、短頭種気道症候群などの呼吸器疾患
  • 肺塞栓症
  • フィラリアなどの寄生虫性心疾患

などが挙げられます。

特に小型犬では僧帽弁閉鎖不全症の発生が多いため、僧帽弁閉鎖不全症に続発する肺高血圧症も発生が最も多いです。僧帽弁閉鎖不全症の犬の約40%が肺高血圧症を併発しているとも言われています。
また、呼吸器に問題を抱えている犬は呼吸によって肺や肺の血管に負担がかかり、肺高血圧症の原因となりますし、肺の血管に血栓や腫瘍、寄生虫が詰まることで血液が流れづらくなることによっても起こります。しかし、原因がよくわからない肺高血圧症もあります。これは特発性肺高血圧症と呼ばれ、人でも難病指定されている病気です。

肺高血圧症の治療と経過

肺高血圧症の治療には、原因疾患の治療と肺血管を広げることによって肺血管の血圧を下げる治療を行います。肺血管を広げるための肺血管拡張薬には、シルデナフィルと呼ばれる薬を主に用いますが、薬を常に体内で作用させる必要があるため、1日3回、症状が安定してからも1日2回の投与が必要になります。治療を開始してからは負担に感じる飼い主さんも多いのですが、我慢して投薬を続ける必要があります。
しかし、残念ながら肺高血圧症は進行性の病気で、その進行を止めることは出来ません。
肺高血圧症は、症状や重症度にもよりますが、一般的に症状が出てから、治療を行わなければ数日で亡くなってしまいます。また、シルデナフィルによる治療を開始しても多くの犬は3~6ヶ月で亡くなってしまうと言われています。末期になると腹水や胸水が溜まることを防げなくなるため、定期的に体の中に溜まった胸水や腹水を抜いてあげないといけませんし、慢性的な重度の低酸素状態によって、酸素ケージなどを用いた酸素投与が必要になる犬も多いです。

犬ごとに経過が大きく異なります

原因となっている病気によって、肺高血圧症の治療に対する反応はさまざまです。肺腫瘍や重度の肺高血圧などでは、早期に亡くなってしまうこともあります。また、肺高血圧症は進行してから見つかることが多いため、このことも予後が悪くなる原因でもあります。運動を嫌がる、疲れやすい、呼吸がはやい、などはもしかしたら肺高血圧症のサインかもしれないので、見逃さないようにしてあげてください。

まとめ

犬の肺高血圧症は診断後の予後が非常に悪い病気です。しかし、治療方法は近年増えてきているため、犬との時間を大切にしながら獣医師とよく話し合って治療を進めていきましょう。

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参考文献

Prevalence and Prognostic Importance of Pulmonary Hypertension in Dogs with Myxomatous Mitral Valve Disease Borgarelli, et al

  • 執筆者

    PetVoiceBlog編集部

    PetVoice編集部は獣医学や動物行動学を学んだスタッフが犬・猫の健康に関する情報をお伝えします。