新機能発表会 小滝橋動物病院グループ井口先生

PetVoiceでは、2024年11月11日に新機能発表会を行いました。新機能発表会では、新機能のご紹介だけでなく、今後注力していく分野についても発表しました。
PetVoiceは現在、心臓病をもつ多くの犬猫にご利用いただいています。今後もより一層心臓病の犬猫のサポートに注力するにあたり、小滝橋動物病院グループの井口先生よりお話いただいた内容をご紹介します。

井口和人先生のご紹介

井口先生は都心に12病院を展開し高度医療を提供している小滝橋動物病院グループにて、グループの代表を務めていらっしゃいます。日本獣医循環器学会の専門認定医として、執刀が難しいとされる小型犬の心臓病、僧帽弁閉鎖不全症の外科手術を専門とされています。

発表内容

日本の犬猫の心臓病の状況

犬では死因の2番目、猫では3番目に多いのが心臓病です。犬では日本で特に人気のある小型犬に多く、チワワが最も罹患しやすいと言われています。

一方猫では、肥大型心筋症という心臓病が代表的で、有病率が約15%ととても高いです。発症年齢も3ヶ月から17歳と若齢から高齢の猫までと、幅広いことも特徴となります。どんな猫でも発症するため、発見が難しいと言われています。

心臓病の進行と治療

小滝橋動物病院にもたくさんの心臓病患者が訪れます。心臓病にはステージがあり、まだ飼い主様が目に見てわからないけれども心臓の状態が悪化している段階から、徐々に疲れが出てきた、呼吸が早い、苦しそうなど徐々に状態が悪化していく様子が飼い主さんの目にもわかる形で進行していきます。

外科手術を望む患者さんも一定数いらっしゃいますが、心臓病は投薬治療が一般的で、大半の患者さんは投薬で病気の進行を遅らせる選択をします。
基本的にはご自宅での経過管理となりますので、病態の進行をご自宅で正確に把握することが非常に重要となります。病態の進行の目安になるのは安静時の呼吸回数なのですが、飼い主様が呼吸回数を測定することはなかなか難しいです。

PetVoiceの心臓病への活用

PetVoiceは安静時呼吸数が数値化できるため、心臓病の犬猫、そして一緒に過ごす飼い主様にとっても心強いツールになると思っています。
獣医師として感じる課題として、まだあまり症状が出ていない、投薬治療も開始していない心臓病初期(B1というステージ)の患者さんに対して特に提案できることがないということがあります。次のステージになると投薬を開始するのですが、投薬を開始するとよく飼い主様から「元気になった気がする」という声を聞きます。しかし、本当に「元気になった」のかどうか、評価をする方法はまだありません。
人間の心不全兆候として最初に出てくる症状は運動不耐、つまり疲れやすさがあります。犬では疲れやすさというのは非常に分かりにくいです。もしかしたら、飼い主様は気づいていないけれども、投薬開始前のステージから徐々に元気がなくなってきていた可能性があるとも言えます。

将来の心臓病治療に関する仮説

このような状況から、実は投薬開始前のステージから、飼い主様は気づきにくい、運動不耐などの心臓病進行の臨床兆候が出てきているという仮説があります。
もし運動不耐などの症状が早期のステージでも出ていることが証明されると、もう少し早い段階で治療介入できる可能性があると考えています。つまり、予後が改善するのではという仮説です。予後が良くなるとは、元気になったり、場合によっては寿命が延びるといったことまで期待できるのではということです。

仮説を支持するデータ例の紹介

この仮説についてPetVoiceの深田さんと話をしていたところ、非常に興味深いデータを共有してもらいました。
こちらは先ほどご紹介した投薬開始前のステージ(B1)にある犬の安静時呼吸数のデータです。

岐阜県の藤原動物病院にかかっている患者さんのデータです。こちらの病院の先生が早期の段階から呼吸管理が重要と考え、心臓病ステージB1の段階からPetVoiceの装着を開始しています。
計測開始から1年以上に渡って1日の安静時呼吸数の平均は10回前後でしたが、今年の7月あたりから安静時呼吸数が20回中盤を記録するようになりました。ちなみに、安静時呼吸数10回前後はかなりリラックスしている状態、安静時呼吸数20回中盤も一般的に正常な値であり、特に「呼吸が早い」とは判断しない数値です。

しかし、下記PetVoiceの安静時呼吸数の時系列グラフを見ると呼吸数の増加がよくお分かりいただけるかと思います。担当医は、数値が上がった段階で定期検診を早める判断をしました。すると、投薬を開始する必要がある次のステージに進んでいることがわかりました。

この例を見ると、投薬開始前のステージから呼吸回数には異変が出ているかもしれないことがわかります。しかし、定説であるアメリカの学会のガイドラインでは、投薬開始前のステージでの呼吸回数に関する言及はありません。この例を見て、呼吸回数に関してはもちろん、他のPetVoiceの健康データの項目でも異変が出ていないか、より多くのサンプルで検証を進めたいと考えています。

PetVoiceとの今後の取り組みについて

そこで、小滝橋動物病院と、今回のデータを提供していただいた岐阜県藤原動物病院、そしてPetVoiceで共同研究を進めたいと考えています。
小滝橋動物病院に来院している心臓病ステージB1の患者様や新しくステージB1と診断を受けた患者様で、ご希望される方にPetVoiceを装着します。PetVoiceで取得される健康データと院内検査の数値の相関などを検証する予定です。
最終的には研究について論文化を目指し、将来的には犬猫の心臓病治療のガイドラインのアップデートに繋がったら良いなと思っています。今後、世界中の犬猫がより効果的な心臓病治療を受けられるよう努めたいと考えています。

  • 執筆者

    PetVoiceBlog編集部

    PetVoice編集部は獣医学や動物行動学を学んだスタッフが犬・猫の健康に関する情報をお伝えします。